年末年始の慌ただしさを忘れて、「桃源郷通行許可証」展

はじめに

 比較的家からもそう遠くない場所に埼玉県立近代美術館があります。最後にこちらを訪れたのは10年ほど前でしょうか。日々の雑用に追われ、たまの休日は都内の美術館に出掛けることが多く、なかなか訪れる機会に恵まれませんでした。2022年11月で開館40周年を迎える埼玉県立近代美術館。「桃源郷通行許可証」という名の企画展に惹かれ、久しぶりに足を運びました。

埼玉県立近代美術館

「桃源郷通行許可証」とは?

 埼玉県立近代美術館は、彫刻広場や音楽噴水などがある北浦和公園に1982年に開館した美術館です。今回こちらで開催しているのは「桃源郷通行許可証」という展覧会。桃源郷=理想郷・ユートピアのような場所、通行許可証=通行のための証明書。これは一体どんな内容なのだろう?と興味を持ちました。企画展の解説を私なりに解釈させて頂くと”芸術作品は桃源郷への通行許可証のようなものである”という考えのもと、さまざまなジャンルの作品を紹介している展示のようです。展覧会タイトル「桃源郷通行許可証」は出品作家である松井智惠さんの作品に由来してつけられたそう。さらに、東恩納裕一(現代美術家)×マン・レイ(画家・写真家・彫刻家)、松本陽子(アクリル・油彩画家)×菱田春草(日本画家)など作家・作品同士の対比でアートを楽しむという試みも大変ユニークに感じます。

展覧会入口

館内の様子

 

〇×〇の可能性は無限!組み合わせで楽しむ鑑賞

 今回の展覧会の大きな見どころは、今まさに活躍している作家さんと美術館のコレクションを同じ空間で鑑賞できることです。異なる時代背景をもつ作品の対比によって驚いたのは、100年以上前の作品と近年制作された作品が並んでいても、すっと馴染んでいたことでした。歴史に名を残す作品は時間や空間を超え、さまざまな人々と共感できるのですね。特に「東恩納裕一×マン・レイほか」という展示室は、複数の作家の個性が組み合わさって独自の空間を築いているように感じました。

東恩納裕一×マン・レイほか

「松井智惠×橋本関雪」の展示室は、日本画と油彩という組み合わせにも関わらず、心地よい空間でした。2人の中に相通じる感覚があったのかもしれませんね。描く絵の雰囲気が何となく似ていると感じる場合、性格なども共通点があったりするのでしょうか。

松井智惠×橋本関雪 (1)

「文谷有佳里×菅木志雄」という組み合わせでは、作品リストに書かれているそれぞれのコンセプトが共通しているように思えなくても、何か通じるものがあるのではと考えさせられます。日常生活ではあまり経験しないその思考こそが桃源郷通行許可証ということなのかもしれません。

文谷有佳里×菅木志雄

 

気になる作家、稲垣美侑さん

 嬉しい発見の1つが気になる作家をみつけることができたこと。その気になる作家とは、会場後半に作品を展示されていた稲垣美侑さんです。撮影禁止だったため、残念ながら作品画像をお見せすることができないのですが、優しい色合いで抽象的な形が組み合わされた絵画は一見親しみやすく感じられます。でもよくみると、画面半分を使って1枚の葉が描かれていたり、だんだんと記号のようなものがみえてきたりと、大胆な構図と掴みどころのない不思議な雰囲気が魅力的でした。今回の出品リストをみると2022年制作のものが多いようで、これからの作品が楽しみです。

 

「今日座れる椅子」&「今日みられる椅子」

 「椅子の美術館」とも言われる埼玉県立近代美術館。近代以降につくられた優れたデザインの椅子をコレクションしており、数十種類の椅子を館内に展示しています。美術館自慢のコレクションの1つですね。定期的に入れ替えをされているようで、どんな椅子が展示されているのかは公式HP内で確認できるそう。今回座ることができたのはジャスパー・モリソンさんの「ベンチ」。

ベンチ

こちらの椅子は2Fの企画展示室内にありました。キャプションと共に展示してあるものを想像していた私。実際には休憩できる椅子としてさりげなく置いてあるので、作品鑑賞に夢中になってしまう人は見逃してしまうかもしれません。小さく丸いフォルムが可愛らしい印象でした。そして今日みられる椅子、梅田正徳さんの「月苑」。

月苑

ジョージ・ネルソンさん、アーヴィング・ハーパーさんの「ネルソンマシュマロソファー」など。

マシュマロ

時代の流れを感じられるデザインですね。

 

展覧会をみて

 館内に入ると、プロローグとして日本画の掛け軸やドラクロワの油彩「聖ステパノの遺骸を抱え起こす弟子たち」が来館者を迎えてくれます。生と死の神秘を思わせる作品群が鑑賞気分を盛り上げてくれるようでした。今回、展示室内にはキャプションが設置されておらず、制作者や作品名が知りたい時には作品リストをチェックする必要があります。ただ、それぞれ展示室の入り口には「松本陽子×菱田春草ほか」というように、どの作家の作品が展示されているのか知ることができるので「この作品は、あちらの作品と雰囲気が違うから別の作家かな?」等と考えながら鑑賞するのですが、以外にも同じ作家の作品だったり、同じ作家かと思いきや別の作家だったり…。こちらの予想を裏切られることも多く、とても面白かったです。展示全体を通して、制作年代や技法ではなく表現者として共通する感覚を学芸員さん独自の視点で見極められていることが感じられ、大変新鮮に思いました。展覧会は会期中に一部作品の展示替えがあるようで、前期は12月4日(日)まで、後期は12月6日(火)からだそうです。二度足を運んでも楽しめそうですね。今回訪れたのは、11月。ミュージアムショップでは一足先にクリスマスグッズが飾られ、来館者をほっこりさせてくれました。

鳥

さいごに

掛け軸と油彩、油彩と写真など普段はなかなかみられない作品の組み合わせが楽しめた展覧会でした。年末年始に、いつもとは違った特別な時間を過ごしたい方におすすめです。

<桃源郷通行許可証>
会期:2022年10月22日(土) ~ 2023年1月29日(日)
※会期中、一部作品の展示替えがあります。
前期:12月4日(日)まで
後期:12月6日(火)から

休館日:月曜日(11月14日、1月9日は開館)、12月26日(月)〜1月3日(火)
開館時間:10:00 ~ 17:30 (展示室への入場は17:00まで)

アクセス:JRをご利用の場合
JR京浜東北線北浦和駅西口より徒歩3分(北浦和公園内)
JR東京駅、新宿駅から北浦和駅まで、それぞれ約35分

バスをご利用の場合
国際興業バス、西武バスとも北浦和駅西口前下車徒歩3分

変更する場合もありますので、足をお運びの際には事前にご確認ください。


よろしければシェアお願いします

2022年12月に投稿したやましょうの記事一覧

この記事のトラックバックURL

やましょう 出張買取対応エリア

関東地方を中心に承っております。詳しくは対応エリアをご確認ください。

PAGE TOP