100歳を越え、なおパワフルに作品を制作した彫刻家。「小平市平櫛田中彫刻美術館」
東京都小平市には「小平市平櫛田中彫刻美術館」があります。JR武蔵野線新小平駅・JR中央線国分寺駅からタクシーで10分ほど。また、西武多摩湖線一橋学園駅からは徒歩、国分寺駅からはバスでほどなく到着…。さまざまな駅からのアクセスが可能となっている美術館です。今回はこちらに足を運びました。
昭和100年記念企画展「平櫛田中の昭和」
小平市平櫛田中彫刻美術館では、令和8年度5月21日~9月6日まで昭和100年記念企画展として「平櫛田中の昭和」展が開催されていました。日本の近代彫刻に多大な影響を与え、昭和期に彫刻家として円熟期を迎えた平櫛田中。激動の昭和と共に華々しく、実にパワフルな活躍で多くの人々を魅了しました。彼の作品・関連資料を通して、“昭和”という時代を振り返るという企画の展覧会でした。
“展示館”と改修工事が完了した“記念館”
美術館は大きく展示館と記念館の2つに分かれており、記念館は平櫛田中がかつて邸宅として使用していた建物で、令和4年度に東京都選定歴史的建造物に選ばれました。展示館は、地下・1F・2Fのフロアからなる建物で、展示室は5つあります。作品以外にも、作家が愛用した日用品も多く展示されており、作品制作の裏側にある作者のリアルな生活が感じられるような構成となっていました。

美術館入口
趣のある建物ですが、周囲にある現代的な民家に溶け込むように存在しています。そして、館内・館外問わず、実際に作家が使用していたものが随所に。

記念館の玄関には、美術商の方から新築祝いに贈られたという備前焼のつぼ。
わずか三畳のスペースで制作された<唱歌君ヶ代>
小平市平櫛田中彫刻美術館のほぼすべての展示室は、残念ながら撮影不可となっています。
最初の展示室に陳列されていた<唱歌君ヶ代>。当時借りていたわずか三畳という狭いスペースで制作されていたそう。彫刻に限らず、作品制作は至近距離でのやりとりと作品から物理的な距離を置き、客観的な視点から自らの作品を見極める工程が必要かと思われますが…。そんな苦労を感じさせない完成度!
美は細部に宿る。
平櫛田中作品といえば、力強い造形と作品表面に施された繊細な彩色ではないでしょうか。<良寛上人>や<釣隠>など、極めて細い絵筆で描かれた文様。量感を大事にする彫刻という芸術と、日本画的な美学が見事に融合しています。
現存する最も古い作品
彼が正式に彫刻を学ぶ前の貴重な作品<鬼小像>も展示されていました。
全体のバランス感覚を捉えることに格闘している様子も感じられますが、作品の細部と丁寧に向き合っていることが伝わってきます。偉大な芸術家が本格的に美術を学ぶ前の作品をみると、その作家が本質的に大事にしているものが見えてくるようで、とても興味深いです。
代表作<鏡獅子>
平櫛田中の有名な代表作の1つといえば<鏡獅子>ではないでしょうか。
こちらも残念ながら撮影不可でしたが、戦前から着手され20年以上取り組んだという、まさに彼の人生と共に歩んだ作品。昭和12年に歌舞伎座に春興鏡獅子がかかった際に25日間通い、徹底的に演者さんを観察したのだとか。また、実際に6代目尾上菊五郎氏と相談して作品のポーズを決めたようです。衣装をまとった作品も見事でしたが、試作裸像(昭和13年製作)も大変力強く、人間のもつ生命力や人間の歴史といったものにも言及しているような堂々たる存在感でした。
マリリン・モンローや西部劇の資料も!
昭和を振り返るというコンセプトの企画展でしたが、平櫛田中の生涯や作品に触れていると自ずと“昭和”という時代がみえてきます。力士の足腰の力強さ、気迫が表現された<玉錦>、作者が集めていたというマリリン・モンローのスクラップ、西部劇に関する資料、川端康成や三島由紀夫の著作など、彼を取り巻いていたものや興味を注いだものは、どれも歴史を象徴するものばかり。遠い未来、現代に生きる巨匠たちを振り返る展覧会が行われた際には、令和の代名詞ともいえる文化が美術館に陳列されるのでしょうか。
別名「九十八叟院」と呼ばれる記念館
展示館を出ると、順路としては記念館を鑑賞する流れになります。


こちらは、平櫛田中が晩年10年ほど暮らしていた建物で、建築家・大江宏による書院造りの美しい邸宅です。記念館は居間や寝室といった、かつての生活空間に平櫛田中の作品が展示されています。少数ですが、他作家の作品も設置されていました。
こちらも建物内は撮影禁止となっています。
100歳の時に平櫛田中が購入した原木

庭に設置されていた<彫刻用原木・クスノキ>です。
木彫作品では、材料としてよく使われるクスノキ。驚くべきことに平櫛田中100歳の時にこちらの木を購入したのだとか!今後20年間創作活動が続けられる量の原木が用意されていたようです。彫刻への驚くべき情熱。
素朴な庭園
建物からは、美しい庭園が望めます。決して大きくは無く、見所となる景色を丹念に作り上げたという風ではありませんが、四季の流れとともに簡素な美が感じられるつくりです。訪れた日は生憎の雨でしたが、雨でしっとりと、静かなお庭には大変癒されました。

左手には、茶室がみえます。制作活動の合間に、こちらの茶室でお客をもてなしていたのでしょうか。それとも、1人じっくりとお茶を楽しんでいたのでしょうか。
最近では急速に写真撮影が可能な美術館が増えているように思います。ですが、地域に根差した比較的小さな美術館では撮影が難しいところも多く、正直がっかりしてしまう気持ちは隠せません。ただ、撮影が難しいのであれば、目の前の作品とじっくり向き合えるという利点もあります。どうしても撮影するとなれば、多少なりとも照明やアングルを気にしてしまうのではないでしょうか。館内では、雨の音に耳を傾けつつ、スマホの電源を切って、心行くまで作品を鑑賞することができました。
平櫛田中彫刻美術館は、休日に訪れても比較的ゆっくりと過ごせる場所。日々の喧騒を忘れるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
<昭和100年記念企画展「平櫛田中の昭和」>
小平市平櫛田中彫刻美術館
期間:令和8年5月21日(木曜)~9月6日(日曜)
開館時間:午前10時~午後4時 ※午後3時30分までに入館してください。
休館日:火曜日休館
住所:〒187-0045 小平市学園西町1-7-5
電話:042-341-0098
アクセス:・西武多摩湖線 一橋学園駅南口より徒歩10分
・「国分寺駅北入口」から西武バス寺61、62系統「小平駅南口」行き
「一橋病院」下車徒歩7分
・西武新宿線 小平駅下車、「小平駅南口」から西武バス「国分寺駅北入口」行き
「一橋病院」下車徒歩7分
※足をお運びの際には事前にご確認ください。







