川喜田半泥子作品の買取

　川喜田半泥子（かわきた・はんでいし）は、企業の要職・銀行の頭取を務めながら、茶の湯・書画・俳句・写真など、多くの芸術分野で才能を開花させた人物です。特に陶芸分野では後世に語り継がれる名品を残し、生涯で制作した作品は3万点とも5万点ともいわれています。特に茶碗にはこだわりを持ち多くの作品を手掛けています。

半泥子という名は号であり、本名は川喜田久太夫政令といいます。号は禅の導師から授けられたもので「半ば泥（なず）みて、半ば泥（なず）まず」、現代風に言い換えると「何事にも没頭し泥んこになりながらも冷静に己を見つめるべし。」という意味だそうです。

半泥子は、1878年に三重県にある200年以上続く豪商の家に生を受けますが、1歳になる前に祖父と父を亡くし、幼いながらも川喜田家の第十六代当主となります。若かった母は実家に帰され、幼少期は祖母によって育てられました。代々川喜多家の当主は家業経営の傍ら文化・学問にも精通しているという家風に習い、祖母は芸術に関するさまざまな教育を半泥子に施したそうで、若い頃から焼き物などに興味を持っていたといわれています。

1900年には東京専門学校（早稲田大学商学部）に入学しますが家業を継ぐために退学、1903年百五銀行に取締役として入行します。1912年に購入した三重県津市南郊外の千歳山から陶土が産出されると知り、楽焼（日本の伝統的な焼き物。低下度で焼いた軟質の陶器）を試みています。翌年には中国・朝鮮半島を周り、各地の陶土を持ち帰り研究に没頭しました。

本業ではかなりの手腕を発揮していたようで、1916年に三重農工銀行の頭取に就任、続いて百五銀行の頭取、三重合同電気会社に社長に就任。1925年には明治生命監査役も務めていました。この頃には千歳山北部に両口倒焔式の石炭窯をつくり、やがて千歳山南端にも小山冨士夫設計の二袋煙突式薪窯を創設、轆轤場も設けました。

その後、多治見・瀬戸の窯や朝鮮半島・唐津の古窯址を研究して自らの設計で登窯千歳窯を築いて焼成に成功しています。1942年になると美濃焼の荒川豊蔵、備前焼の金重陶陽、萩焼の三輪休和と共に「からひね会」を結成することとなります。それぞれ国を代表する陶芸家であり、現代の陶芸界に大きな影響を与えた人物として知られています。

1945年には百五銀行頭取を辞任後、会長となり陶芸に没頭する生活を送ることになります。しかし戦争によって津市の郊外長谷山に疎開することとなり、翌年には千歳山の窯を長谷山に移し、広永陶苑を創設しています。陶芸は還暦近くになって本格的に始めた半泥子でしたが、創作意欲は大変旺盛で喜寿祝賀77碗を製作、傘寿記念の折には茶碗80碗の製作を試みたものの、碗を求める人が殺到し、最終的に100碗を手掛けたと伝えられています。

長きに渡る社会貢献が認められ、1956年に藍寿褒章を授与されました。翌年に仁和寺で開かれた八十寿祝賀会には記念の茶碗と図録「半泥子八十賀百碗鑑」を参加者100人に贈り、主に半泥子の子である川喜田壮太郎の寄進で泥仏堂を新たに建立しています。「東の魯山人・西の半泥子」「昭和の光悦」などとも称されており、数々の優品を後世に残したことから日本の陶芸界に多大な影響を与えています。また、半泥子は地域文化の発展を願い1930年に財団法人石水会館を設立します。こちらの施設は現在も川喜多家当主が代々コレクションしてきた芸術品を公開しています。