遊び心溢れるイタリアの写真家。ルイジ・ギッリ「終わらない風景」展

 東京都写真美術館では、総合開館30周年記念展として、「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」展が開催されていました。ルイジ・ギッリさんという写真家の存在は存じ上げていなかったのですが、HPに紹介されている彼の写真作品が気になり、今回足を運びました。

イタリア写真界の巨匠「ルイジ・ギッリ」

東京都写真美術館は何度も訪れている美術館であり、最寄り駅からのアクセスも良く、1つの企画展会場が広過ぎないため気軽に訪れることができる美術館の1つです。平日に訪れることが多いのですが、混み合うことも少なく作品もじっくり鑑賞できる印象がありますね。今回の記念展で紹介されるルイジ・ギッリさんはイタリアを代表する写真家です。彼は測量士として働いた後、1970年代から写真作品を手掛けました。ギッリさんは、写真は単に現実を映すためのものではなく、写真で捉えた視覚的断片によって、現実とさまざまなイメージ/創造を喚起させる装置として用いていたような印象を受けます。

東京都写真美術館

ユニークで軽やか。イタリアの現代美術

私がイタリアの現代美術家の方々の作品を鑑賞していて思うのは、彼らの作品は遊び心満載だということ!格式と伝統あるイタリアの芸術史を背負いながら、軽やかで遊び心溢れる名作を生み出しているのは本当にお見事です。そして巨匠ギッリさんの作品もまさしくその通りなのです。

遊び心満載1

左から2枚目<モデナ・1971>という作品は、男女がダンスしている壁面のオブジェと星を彷彿させる電飾(私には電飾に見えます。)が何ともロマンチックです。日常でばったりこちらの被写体に遭遇しても「ロマンチックだな。」という印象は持たないかもしれません。写真に収めることによって、鑑賞者にイマジネーションを喚起する仕掛けとなるのですね。1番右の<ルフェルン1973>という作品も、照明がまるで輝く太陽のような印象を受け、写真に物語性が漂います。

こちらも遊び心満載

遊び心満載2

写真右の作品<マリーナ・ディ・ラヴェンナ1970>も軽やかで粋な作品。画面内にスクエア型の色彩が構成され、一見すると抽象絵画のような面白さがあります。よくみると、壁に掛けられたミラー越しに砂浜と海がみえます。鏡、カメラと幾重にも写された虚像は、鑑賞者をわくわくさせてくれます。一方<エンゲルベルク1972>も、背景の看板が道行く人々を待ち受ける自然豊かな風景のように存在しています。観光地の滝のようにみえてきて、視覚的な面白さがありますね。

ギッリを支えたmoglie(妻)パオラさん

グラフィック・デザイナーとして活躍した奥様のパオラ・ボルゴンゾーニさんの作品も会場内で紹介されていました。パオラさんは、ギッリさんの写真家としての活動を後押しされていたようで、彼が立ち上げた出版社プント・エ・ヴィルゴラも共に立ち上げた1人です。

パオラ・ボルゴンゾーニ

彼女の作品に現れる、モチーフとモチーフの関係性によって別の何かを表現する手法は、どこかギッリさんと共通するものを感じます。1974年にインテリアデザインを学び、デザイナーとして活躍したパオラさん。測量技師の仕事を完全にやめて、作品制作に専念できたのも間違いなく彼女の支えがあったからでしょう。

イタリアの風景

イタリアの風景を撮影したシリーズです。

イタリアの風景

解説によると作品には「どこかで見たことがある」既視感と「見たことがない」未知の感覚との間にある揺らぎを感じさせる、とのこと。しかしながら、日本にしか住んだことのない私の視点では既視感というよりは、物語の一節のようなシーンに感じられました。イタリアやヨーロッパに長い間住んでいた方ならば、既視感がきっと感じられるのでしょう。人々の生活空間であるのにも関わらず、人が主役として撮影されている作品がほぼ無いためか、幻想的な映画のようにも感じられました。

本棚=持ち主の人生

アイデンティキット

自宅にある書棚を撮影した「アイデンティキット」シリーズ。読んでいる本は、読み手の人生が浮き彫りになるのでは、という着眼点から生まれたシリーズのようですが、私も常々そう思っていたので非常に興味深く鑑賞することが出来ました。本だけでなく、書棚に飾られたオブジェなども持ち主の生活や人生が滲み出ているようで良いですね。こちらのシリーズ、まだ他にも作品があるのであれば見てみたいものです。

気になる芸術家のアトリエ

ギッリさんが、アーティストのアトリエを撮影したこちらのシリーズも大変面白かったです。

芸術家のアトリエ

面白いのだけれども、ギッリさんの作品はなぜか心が落ち着きます。アーティストのアトリエというと、絵具などの制作道具のようなものがそこかしこにあり、美術に精通していない人々の自宅と大きく違うのではなかろうか?と思うのですが、ギッリさんが撮影されていたアトリエは、良い意味で裏切られました。すっきりと静かな空気が感じられる空間でした。これはギッリさんの力量に寄るところもあるのでしょうか。

ミュージアム・ショップNADiff BAITEN

東京都写真美術館のNADiff BAITENは、ぜひ覗いて頂きたいミュージアム・ショップの1つ。美術館建物の2階にあります。展覧会の図録のほか、ルイジ・ギッリさんの過去に発行された写真集はもちろんのこと、国内外の写真集が多数取り扱われています。グッズも素敵なものが多いので、贈り物を選ぶ際にもとてもおすすめ。必ず立ち寄ります。

展覧会をみて

ギッリさんの作品は遊び心に溢れ、軽やかで繊細さも感じられる素敵な作品でした。コンセプトだけに引っ張られず、写真自体がもつ素晴らしさや面白さも感じさせてくれます。紹介した作品のほか<F11,1/125,自然光>などカメラの絞り値やシャッタースピードなどの写真技術をタイトルにするなど、ユニークな作品も多数展示されていました。彼の写真集はあまり重版されることがないと聞いたので、古書店で見つけた際には必ずチェックしてみようかと思います。

総合開館30周年を記念して開催された展覧会。平日であるのにも関わらず、多くの人々が足を運んでいました。写真作品は個人的に大変興味があるので、近いうちにまた訪れたいと思います。

 

 

総合開館30周年記念 ルイジ・ギッリ 終わらない風景
場所:東京都写真美術館 https://topmuseum.jp/
住所:〒153-0062 東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
期間:2025年7月3日㈭~9月28日㈰
休館日:毎週月曜日(月曜日祝日の場合は開館し、翌日休館)
開館時間:10:00~18:00(木・金曜日は20:00まで)入館は閉館時間30分前まで
電話:03-3280-0099
アクセス:(電車)JR恵比寿駅東口より徒歩7分
         東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分


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