心も身体もリラックス。市川市芳澤ガーデンギャラリー
美術館に行きたい!と思ったときに、まず都会の中心にある大型美術館を思い浮かべる方も多いでしょう。確かに魅力的な企画展を開催しているけれども、来館者も多いだろうし歩き疲れてしまうのはちょっと気分ではない…ということもあると思います。そんな時には、住宅街にそっと佇む“地域の憩いの場”のような美術館はいかがでしょうか。
市川市芳澤ガーデンギャラリー・企画展「青森の芸術家」
足を運んだのは、市川市芳澤ガーデンギャラリーという名の施設です。こちらは、約1,000坪の敷地にある庭園を活かした美術館として2004年にスタートしました。庭園は百樹園と名付けられ、四季折々の自然があふれる空間。芸術作品だけではなく、ほっと一息つけるようなスペースとなっています。
今回行われていたのは「青森の芸術家」という企画展。日本の美術史にその名を残す棟方志功や世界的現代美術家の奈良美智、ウルトラマンを生んだ成田亨、歌人・劇作家の寺山修司など幅広い分野で青森県出身の作家を紹介しているようです。
素敵なお庭とモダンな建物
市川市芳澤ガーデンギャラリーの庭園。季節によって、さまざまな植物が息づき、輝いているのだろうと想像できるような場所です。藤棚が見頃を迎えていました。
決して歩き疲れるような広さではないのですが、多種多様な植物のお陰で施設入口までゆっくりと散策が楽しめます。
庭園内にはブロンズ像がありました。やがて近代的で素敵な建物がみえてきます。
青森出身の芸術家が集結した今回の展覧会では、青森という場所にちなんだ作品も多数出品されていました。
上はリトグラフで制作された今純三さんの<青森県画譜第7集/郷土玩具図>です。下は、同じく今純三さんの<青森県画譜第8集/観桜会風俗(弘前市)>です。上方は、青森県の郷土玩具を第三者に伝えるためのスケッチのようにも見えますが、作者の郷土への愛情が感じられますね。ローカルなものがもつ味わいとモダンさが入り混じる粋な作品といえます。下方は、桜の花を観賞するためのイベントを描いたものですが、場所や時間は関係なく様々なシーンを1枚の絵の中に収めたように見受けられます。どちらも記録写真では表せない温もりがあります。
世界的芸術家・棟方志功
青森県出身の芸術家といえば、版画家の棟方志功さん。大胆な構図と自由で鮮やかな色使いが特徴の芸術家です。逞しさが溢れるあたたかみといいましょうか、彼ならではの画風は、国内のみならず海外でも高い評価を受けています。
1961年棟方志功作の<花矢の柵>。作者の込めた思いとしては“心の矢で美しい花を射止める図”ということらしいのですが、画面上の馬(?)の力強さとその体に施された不思議な模様、女性の存在感に圧倒されて、矢が謙虚で控えめに感じられます…。眼前に黒い絵具が駆け抜けていくような迫力がありました。
写真よりも本物に近い?棟方志功の肖像画
棟方志功の作品の隣には、彼の肖像画が。
関野準一郎さん作の<棟方志功像>です。人物画を多く手掛けている作家さんのようですね。さまざまなメディアでお見掛けする棟方さんの特徴をよく捉えていますが、写真よりも落ち着きのある自然な表情が印象的です。
可愛いだけではない人物画
世界的に有名な現代美術家・奈良美智さん。絵に描かれている人物は、一見親しみやすく、可愛らしい印象を受けますが、タイトルやメッセージを含め、深みを感じさせるものがありますね。「深み」とは、ありふれた言い方ですが、日常のふとした瞬間に感じる切なさや嬉しさなどを鑑賞者側にリアルに感じさせてくれるのです。自分の好きなものを描いていく!という作家としての姿勢を前面に出しながらも、どこかご自身を俯瞰的にみているように思えるところも不思議な画家さんだなと思っています。
昭和の日本文化の象徴!ウルトラマン
ウルトラマンの生みの親、成田亨さんのスケッチも展示されていました。ぜひ写真に収めたいと意気込んでいたのですが、いずれも撮影不可。ウルトラマンだけでなく、カネゴンやバルタン星人など懐かしの怪獣たちを描いたものもありました。成田さんは名門美術大学で学び、絵画や彫刻をじっくり学んだ方として知られています。アカデミックな教育を受けたことを感じさせる素晴らしい作品でした。怪獣たちは、これまでにない発想の造形でありながらも、単に奇をてらった訳ではない芸術的な美しさもあります。
名作絵本・11ぴきのねこが焼き物に…
絵本「11ぴきのねこ」といえば、馬場のぼるさん。彼も青森県出身だったとは知りませんでした。コミカルで可愛らしいねこたちが陶芸作品に。こちらも残念ながら撮影禁止でした。製作年は不詳ということで、馬場さんがひっそりといつのまにか制作されていたものでしょうか。
「佐野ブルー」
抽象画家・佐野ぬいさんは、今回の展覧会で初めて知ることのできた作家さんです。彼女の作品で使われる青色は「佐野ブルー」とも呼ばれる印象的な青色です。
ポップで独特の世界観が現れている作品群は、会場内でも一際目を引きました。
寺山修司さんのお面!?
小スペースを設けて、グッズの販売もされていました。写真に収めてはいないのですが、なぜか寺山修司さん御本人のお顔の面?が販売されておりました。ウルトラマンや11ぴきのねこグッズなど、よく知られたキャラクターはお土産にもぴったりです。
今回写真撮影が許可されていたのは、展示室2つのうち1つのみでした。もう1つの部屋では、以前から興味のあった寺山修司さんのポスターが展示してありました。寺山さんの著作はいくつか読んだことがあるのですが、ジャンルに捕らわれず非常に博識な方であるという印象でした。ポスターも奇想天外かつさまざまな要素があふれていました。寺山修司さんにとって、世界の事物は独自の発想で繋がりあっているように思えます。
また、美術館内の廊下は、自然光が降り注ぐ非常に気持ちの良い空間でした。休日に訪れたのですが、人々で溢れかえっているといった雰囲気ではなく、来館者は誰もがリラックスして過ごされている様子が印象的でした。
芸術作品に触れる時には、時にはリラックスした環境も大事ですよね。今回のような美術館はピクニック気分で気軽に訪れることのできる素敵な場所。お住いの近くにこのような美術館がないか、ぜひ探してみてくださいね。
<青森の芸術家 棟方志功から奈良美智まで>
市川市芳澤ガーデンギャラリー
住所:〒272-0826 千葉県市川市真間5-1-18
電話:047-374-7687
開催期間:2025年4月26日(土)〜6月29日(日)
開館時間:9:30~16:30(最終入館は16:00まで)
休館日:月曜日 5/5(月・祝)は開館、5/7(水)は休館
アクセス:<電車>JR線/JR総武線市川駅より徒歩16分
私鉄/京成線市川真間駅より徒歩12分
※足をお運びの際には事前にご確認ください。