夏を目前に!「吹きガラス 妙なるかたち、業の妙」展で涼を感じる

 気温もだんだんと高くなってくる5月、涼しげな展覧会は無いものだろうかと考えていました。そこで今回は六本木・東京ミッドタウン内にあるサントリー美術館で開催されている展覧会「吹きガラス 妙なるかたち、技の妙」に足を運びました。

アートの地、六本木にある「サントリー美術館」とは? 

 「生活の中の美」を基本理念に、絵画や陶磁器、漆工などの日本の古美術を多数コレクションしているサントリー美術館。建物は隈研吾氏の設計で、モダンながら落ち着いた和の雰囲気です。玄鳥庵という茶室もあり、まさに日本の美に浸れる場所です。

サントリー美術館入口

紀元前から現代まで、多種多様な吹きガラスたち

 吹きガラスは高温で溶けたガラスを風船のように膨らませて器を作る技法です。今回の「吹きガラス 妙なるかたち、技の妙」では、紀元前1世紀に登場した吹きガラスから始まり、近代までの作品を紹介しています。吹きガラスならではの美しい形と技術に着目し、歴史的美術品だけでなく現代の作家によるガラス作品にも出会えるそう。個人的には16世紀のイタリアでつくられたシンプルかつ華やかなガラス作品と江戸時代頃に誕生した日本の吹きガラスを楽しみにしていました。

古代ローマ時代の吹きガラス 

 第1章は、ローマ時代に製造された吹きガラスのコーナーでした。古代といっても既に吹きガラスの装飾技術はさまざまで、吹きガラスならではのフォルムが楽しめるものが多くありました。繊細な素材であるガラスの工芸品が長い時を経て、現在まで残っていると考えると感慨深いです。

ローマ時代のガラス

色を排除し、フォルムで魅せるイタリア

 楽しみにしていたイタリアの吹きガラスたち。以前イタリアに旅行に行った際、さまざまなガラス作品を見ることが出来ましたが、素朴でありながら素っ気なさはなく、気品漂う素晴らしいものばかりで感動したことを覚えています。今回出品されていたガラスたちもまさにそのイメージで期待以上でした。16世紀~17世紀頃のイタリアの作品は色味をほとんど用いずに、装飾やフォルムで美を表現していたそうです。この概念はイタリアの彫刻作品とも繋がりがありそうですね。

イタリアガラス

現代の吹きガラスたち  

 展覧会では、ガラス制作に関わる技法を使った現代作家の作品も展示しています。作品解説には制作者が作品に込めた思いなども紹介されていました。何世紀も前につくられた歴史的遺産となるような作品たちは作者の思いを知ることができないものが多いので、作り手の考えを知ることができるのは嬉しく思います。

こちらはヴェネチアで発展したメッツァ・スタンパトゥーラの技法が使われたガラス作家関野亮さんの<Goblet>シリーズの1つ。ガラスならではの透明感と凛とした雰囲気が素敵です。透明なガラスは形によって印象がガラリと変わりますね。

現代作家1

「ヴェネチアの夜」

 深いブルーの色が、ガラスの質感と相まって気品を感じさせます。加倉井秀昭さんの<水月 ヴェネチアの夜>という作品で、ヴェトロ・ア・レティチェッロという手法でつくられたものです。よくみると、淡い緑色と紫色の格子模様が。一見シンプルなデザインのようですが、見るほどに作品のもつ繊細な美しさに魅了されます。

現代作家2

本当にガラス?

 小林千紗さんの<しろの くろの かたち2022>は「素材はガラスなのだろうか?」と一瞬疑ってしまうマットな黒色が印象的です。解説をみると、ガラス独特の物質感を消すために黒色を施しているのだそう。熔けたガラス特有の柔らかで有機的な形とマットな色彩の対比が面白いですね。

現代作家3

1つの球から広がる想像

 ふわりと浮かぶ水の塊のようなガラス作品は横山翔平さんの<Amorphous22-5>。しっかりとした重量感もありながら、やはり金属や木などとは違う瑞々しさと軽やかさを感じます。どこか地球、自然の恵みを思わせてくれるのも不思議なところ。

現代作家4

熔けたガラスの一瞬の表情

 同じく横山翔平さんの<Amorphous21-1>という作品。こちらは坩堝から出したガラスをすぐさま練ったり曲げたりして制作されたようです。今にも動き出しそうな躍動感にあふれていますね。横山さんはガラスという素材がもつ不思議さや、温度によってその姿を刻々と変えていく一瞬の美を切り取られている作家さんなのでしょうか。

現代作家5

江戸時代の吹きガラス「ちろり」

日本のガラス

 江戸時代に生まれた吹きガラスの製品です。カリ鉛ガラスというかつて日本で使われていた高い透明度を誇る種類のガラスで製造された「ちろり」。お酒を温めるときに使われた道具だそうで、深い瑠璃色と品のある形がみとれてしまうほど美しいです。左右似ているつくりですが、透明と瑠璃色。こうも印象が違うのですね。

色鮮やかな氷コップ たち

 今回、心惹かれたものの1つは氷コップ。氷コップとは、主にかき氷を食べるときに使うもので様々な色・形のものがあります。色鮮やかで清涼感のある氷コップは、眺めるのがとても楽しいひとときでした。現代はどちらかといえば、シンプルなデザインの品が手に取られやすく、万人に好まれる気がしています。時代の流れというのでしょうか、現代の感覚ではパッと出てこないデザインかもしれませんね。遊び心満載、愛らしいサイズと形でコレクションされている方も多いのではと感じます。

氷コップ

展覧会をみて

 展覧会会場では、現代作家の作品を中心に写真撮影OKのものが多い印象でした。1つのテーマにつき一カ所は写真撮影が許可されている作品が出品されていたように思います。数年前までは、作品撮影を許可している展覧会は少なかったので時代の流れを感じました。特に現代美術関連の展覧会はその変化が顕著な気がします。今回は、過去の吹きガラスの製造技法を現代の職人の手により再現された作品もありましたが、やはり文字やイラストだけの説明よりも実物をみた方が理解しやすく、より興味がそそられますね。色をほとんど用いずに、フォルムで勝負したイタリアの吹きガラスは本当に素晴らしかったです。作品をより引き立たせるために、不要と思うものはバッサリと削ぎ取る。そんな潔さは日本の人々がもともと持つ美的感覚に響くものがあるのではないでしょうか。  

 古来より伝わる吹きガラスは、製造された国の気質や歴史が反映されており、とても興味深いものでした。サントリー美術館周辺は美術関連の施設が数多くある地域ですので、散策にもおすすめです。

■会期:2023年4月22日(土)~6月25日(日)
■会場:サントリー美術館
 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
 交通機関(東京ミッドタウン[六本木]まで)
 都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結
 東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結
 東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩約3分
■開館時間:10時~18時
■美術館ウェブサイト:https://www.suntory.co.jp/sma/

※変更の可能性がありますので、足をお運びの際は事前にご確認ください。


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